リスク論について深く理解するための書物

大学の安全工学の講義程度のレベルではリスクについては以下のような文脈でなされる。以下の書物が参考になると思う。

・人は大きい負のリスクを過大視しがち。

・ほかにも、様々な心理的・社会的要因で実際の科学的判断よりも過大視されることが多い。

・リスクについての正確な情報を専門家が一般市民に教授するリスクコミュニケーションが不可欠である。

原子力工学を学んでいた私にとってこの話はとてもためになったが、同時に何か違和感を感じた。しかし、それがなんであるかはわからなかったので放置した。

しばらくたった後、私は進路を決めなくてはならなくなった。進路というものは実は本当に多様に選択できるということをこの時初めて実感し、やがて「人生の」不確実性について思索するようになった。そんな時にネットで見つけたのが以下の書物だ。


この本を読んで今までもやもやとしていたものがすっきりした。以下ではリスクはゲーム理論の教科書のように計算可能な対象であること、それに対して不確実性はそうでないことと区別しておこう。本書のは確率の低い事象はリスクではなく不確実性の領域に属すること、そしてそれは決して制御できないことを主張する。

しかし、この本を読んでもまだ納得いかない部分があった。そこで、タレブの考え方に近いものを調べると、「予防原則」というものが出てきた。そして、それについて最もよく解説しているのは以下の書物だ。

この本は、費用便益分析と予防原則を対比させた後、結果的には費用便益分析に軍配を上げる構成になっている。その根拠の一つとして予防原則自身が予防原則をも否定してしまう論理的矛盾を起こしていることが挙げられる。


タレブが主張していることは結局のところ予防原則そのものである。予防原則とはもともと費用便益分析の対極として出てきた考え方である。この本を一読した私は予防原則(大きすぎるリスクは許容しない。)が正しいのかなあと考えていたがどうやらそうでもないらしい。それは、予防原則自身が予防原則をも否定してしまう論理的矛盾を起こしているからだ。この事実を踏まえたうえで私は費用便益分析の文脈と予防原則の文脈のどちらが正しいのか結局わかることができなかった。

結局のところ「低確率事象のリスクを評価する」ことはサイエンスを超えたところにあるのだ。ワインバーグのいうところのトランスサイエンスである。

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