自己への物語論的接近―家族療法から社会学へ
「自分とは何か」という漠然とした問いに対して、これまで様々な角度から検討されてきた。有名どころでは、エリクソンの「自我同一性―アイデンティティとライフ・サイクル」などがある。しかし、私はエリクソンの本の内容をうまく理解できなかったし、何よりも理論が時代遅れな気がした。
そんな時に出会った概念が「Self narrative(自己物語)」であった。そこで、自己物語の数々の著書の中で一番売れていると思われるこの本を手に取って読んだ。この本は論拠が充実していて、私を含めた現代人にとってこの本の主張している内容が非常にしっくりくるものだと思う。(結果だけ知りたければ一章だけ読めば充分だ。)
ところで、「人間とは何か(人間とはどういう生き物か)」という問いに対して一言で表そうとしたときに以下のような典型的な答えがある。ホモ・ファーベル(工作人)、ホモ・サピエンス(英知人)、ホモ・ルーデンス(遊戯人)だ。しかし、私はこの話に長い間納得していなかった。物を作れない人はいるし、知性がない人だっているし、遊び心がない人もいるからだ。
ナラティブアプローチにはこの疑問に対する明快な答えになるのかもしれないと思った。たいていの人は自己紹介をするときには出来事の断片を語るわけではなくて、ひとまとまりの物語を語る。ビジネスにおいても顧客が納得するストーリーが組めるかどうかは非常に重視される。私は物語を作らないで生きる!!と固い決意をしている人ですら、結局はそういう自己物語を持っていることになるのだ。名付けて人間とは「ホモ・ナランス(物語る者)」なのかもしれない。
などと思っていたら、homo narrans(ホモ・ナランス) はすでに1967年にドイツの民俗学者によって提唱されていたらしい。
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